アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは皮膚表面の角質層の異常にともなって、皮膚の乾燥とバリア機能異常という皮膚の生理学的異常があるために、色々な物質に対して刺激反応やアレルギー反応が起こることによって、炎症とかゆみをともなう湿疹・皮膚炎群の一疾患です。
症状は体の左右で同じように現れやすく、おでこ、目の周り、口の周り、首、手足の関節、胸や背中などに現れます。このような症状が一時的なものではなく、長期間(ガイドラインでは乳児では2ヵ月以上、その他では6ヵ月以上)続く場合にアトピー性皮膚炎と診断されます。アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹がでる病気で、悪くなったり良くなったりを繰り返します。患者さんの多くは「アトピー素因」と呼ばれる傾向をもっています。
湿疹(しっしん)
皮膚トラブルのなかで最もよくみられ、湿疹も日常会話の中でも時々耳にする言葉です。皮膚科では、〇〇皮膚炎という呼び名が使われることもありますが、ここでいう皮膚炎と湿疹は同じ意味です。みなさんは、湿疹と聞くとどういう状態を想像されるでしょうか?
下の図を見てください。これは湿疹三角とよばれる図で、時間の経過とともに変化する皮膚の状態を表したものです。皮膚表面にかゆみのある赤い斑(紅斑:こうはん)は、盛り上がったプツプツした斑(丘疹:きゅうしん)、さらにひどくなると小さい水ぶくれ(小水疱:小水疱)あるいはうみをもった水ぶくれ(膿疱:のうほう)に変化していきます。炎症がピークを越えると、やがてみずみずしい面(湿潤:しつじゅん)が徐々にかさぶたになり(結痂:けっか)、皮が薄くなりめくれて落ちていきます(落屑:らくせつ)。一回きりの反応であれば、きれいな皮膚に戻る(治癒:ちゆ)のですが、この三角形を何度も繰り返してしまうと、ゴワゴワと分厚くなった皮膚(苔癬化:たいせんか)あるいは褐色の変化(色素沈着:しきそちんちゃく)といった慢性湿疹の症状に変化していきます。
つまり、「湿疹とはどんな症状のことを指すのか?」と聞かれたら、この図にある症状のどれでも、時期によって生じる可能性がある、ということになります。
湿疹の原因には外的因子と内的因子があり、これらが絡み合って起きます。外的因子とは花粉・ダニ・ハウスダスト・細菌・真菌・薬剤・化学物質などがあり、また直接皮膚をこする行為や掻く行為も外的因子に当てはまります。内的因子とは、個人の皮膚の健康状態(乾燥しているか、汗をかいているか、皮脂の分泌はどうか、など)・皮膚のバリア機能の強さ・アトピー素因などが挙げられます。なお、これらの原因のうち、はっきりとしたものは次のような別の病名がつけられています。
アトピー性皮膚炎・接触皮膚炎・脂漏性皮膚炎・貨幣状湿疹・自家感作性皮膚炎・うっ滞性皮膚炎・皮脂欠乏性湿疹・汗疱
どんな治療をするの?
主にステロイド外用薬を使います。
じんま疹
膨疹(ぼうしん)とよばれる特徴的な症状が突然全身のあちこちに出てきます。さきに湿疹の話をしましたが、この湿疹とは区別される独特な皮膚症状です。蚊に刺された時のようなとか、ミミズ腫れのような、あるいは地図状に盛り上がってきたと表現されることが多いです。強いかゆみを伴い、数十分~数時間であとかたもなく消えたり、場所が移動することが特徴です。原因がはっきりしていて再現性があるものと、原因がはっきりしないもの(特発性:とくはつせい)に分けられますが、後者の特発性じんま疹が大部分を占めます。通常、特発性じんま疹の場合に検査は必要ありませんが、特定の原因で起きていることが明らかな場合は血液検査をすることもあります。
どんな治療をするの?
抗アレルギー薬を内服することで治療します。眠気の副作用に注意をする必要がありますが、最近では眠気が出にくい薬も使用できますので、安全に治療することが可能です。特定の原因が推測される場合はその原因から遠ざかることも考えます。通常は1週間程度で収まりますが、場合によっては長引くことがあり、6週間以上症状が続くものは慢性蕁麻疹とよばれており、長い期間飲み薬が必要となることもあります。治りにくい場合は薬を増量したり、複数の薬剤を組み合わせることもあります。
接触皮膚炎(かぶれ)
湿疹の一種です。湿布・草木・薬剤など、外からの刺激によって湿疹が生じるものを指します。発症のしくみの違いで分類されており、誰にでも生じるものを「刺激性接触皮膚炎」、アレルギーによるものを「アレルギー性接触皮膚炎」とよび区別します。
どんな治療をするの?
湿疹のひとつの形ですから、治療はステロイド外用薬が軸になります。しかし接触皮膚炎において最も重要なのは、湿布かぶれの場合は湿布をやめるなど、接触の原因になった物質から遠ざかることです。
脂漏性皮膚炎
湿疹の一種です。30~40代に多く、頭にフケが頭皮にこびりついたり、眉間・鼻筋~鼻の両サイド、頬、あごなどに赤みや細かい皮が付着することがあります。これらは脂漏部という、皮脂の分泌がさかんな部位で、他の湿疹に比べ、かゆみがあまりないことが多いようです。
どんな治療をするの?
基本的にはステイドロの外用が効果的であり、短期間の外用で改善がみられます。注意点は、脂漏性皮膚炎の症状の出やすい顔面や首は皮膚が薄い部位であり、長期使用に対するステロイド外用の副作用を考慮して、弱めのステロイドを選択する必要があります。最近はマラセチアの関与も考慮して、カビに効く抗真菌外用剤もよく使用されます。また、皮脂を減少させる効果が期待されるビタミンB2やB6を内服する場合もあります。以上が基本的な薬物療法です。
もう一つ大切なのは、日常生活の見直しです。脂漏性皮膚炎は、生活習慣の改善で、かなり予防できる疾患なのです。まず適切な洗顔(基本は朝晩の1日2回)、洗髪(基本は毎日)によって脂漏部位の清潔に保つことが発症の予防や症状の改善につながります。また、食生活にも注意し、ストレス、過労、睡眠不足なども増悪因子となるので、規則正しい生活を心掛けるよう努力することも大切です。
みずむし
“みずむし”は俗名であり、正式には皮膚糸状菌という真菌(≒カビ)の一種であり、その中でも多種類に分類されますが、特に白癬菌属の頻度が高いため白癬菌とも言われます。足底や足指の間は最も頻度が高い部位です。
付着する原因は、すでに白癬菌を持っている人との接触感染、特に日常環境の物などを介して間接的に接触して自分の皮膚に付着するケースが最も多いと思われます。ただ、白癬菌は付着しただけではまだ感染したとは言えず、その部位で増殖する必要があり、そのためには増殖する条件が整うことが必要です。
みずむしは必ず皮膚表面に何かしらの症状があります。頻度の多い症状として、足指の間に発赤や小さい水ぶくれ、皮がめくれる、白っぽくてしめったような皮膚になる、痛い、かゆくなるなどがあります。一方で、かかとが硬く厚くなり、かさかさになるだけで、かゆみがない場合もあります。他には、爪が一部白く濁ったようになり、爪が厚くなったり、爪の強度がなくなり、爪を切るとぼろぼろと粉状にくずれてきたりします。
見た目だけでは診断は不可能で、必ず皮膚の一部を顕微鏡で調べて、白癬菌を証明する必要があります。そのためにも、自分で判断せずに皮膚科を受診していただくことをお勧めします。
どんな治療をするの?
まず行う治療は白癬菌を殺す抗真菌外用剤を塗布することです。適切に行えばこれだけでほとんどが根治可能です。回数については最近の外用剤は入浴後に1日1回のタイプが多いです。かかとなどの角質で白癬菌が増殖したみずむしの場合は、外用のみでは角質が厚く病変まで薬剤が行き届かないこともあり、角質を軟化させる外用剤と併用したり、白癬菌を殺す飲み薬が必要な場合もあります。白癬菌をゼロにすることで根治は可能と考えられますが、白癬菌は日常ありふれた菌であり、付着すると再発する可能性は常にあります。
注意することは、みずむしと自己判断してしまい、市販のみずむしの外用剤を使用してしまうことです。市販の外用剤の効果が悪く、ますます悪化してしまったり、みずむしではあるが市販の外用剤がある程度効いていて、検出できない可能性もあります。しばらく市販の外用剤を止めていただいて、後日もう一度来ていただくといったようなことになりかねませんので、自己判断はせずに皮膚科を受診されることをお勧めします。
乾癬
典型的には、厚いかさかさした銀白色の皮をともなった赤い斑が全身に散在する“炎症性角化症”といわれる皮膚疾患の代表で、通常の「尋常性乾癬」や、細かい紅斑が出現する「滴状乾癬」などいくつかの病型が存在します。ただ、症状には幅があり、外用剤で十分コントロールできる軽症例から、全身が赤くなってかさかさした皮が付着する重症例まで様々です。皮膚の表面では、常に角化細胞が基底層という最も深い層から発生して、徐々に上にあがってきて最終的に角層という最も皮膚の表面の層で脱落するという”再生と脱落”を繰り返しています。これを“皮膚のターンオーバー”と言います。これには通常28〜45日かかりますが、乾癬では4〜7日と、ものすごくターンオーバーが短縮しています。
病因としては、遺伝的な要因やTh1やTh17が関連した免疫学的な要因や外的な環境因子が絡み合って発症すると考えられています。
どんな治療をするの?
治療ですが、根本的治療は困難であり、症状をおさえてコントロールしていくことになります。
かさかさした紅斑にはステロイド外用やビタミンD3外用薬が効果があり、単独または混合剤を用います。ある程度の症状までは外用のみで改善しますが、それ以上の治療が必要と判断した場合は、適宜総合病院や大学病院に紹介して光線療法を受けていただくことをお勧めしています。また、中等症以上に著効するビタミンA誘導体のレチノイド内服や、免疫抑制剤シクロスポリン内服は当院でも処方可能です。それでもコントロールできない最重症例は総合病院や大学病院に紹介して、生物学的製剤の適応となります。
いぼ
いぼは、ヒト乳頭腫ウイルスというウイルスの表皮または粘膜の基底細胞への感染が原因です。ウイルスは微小な外傷などから侵入し、この細胞に感染することで、角化細胞の分化とともに、自らも複製されて増殖していきます。一般的には、外傷を受けやすい手指、手背、足底、足背、顔などに多くみられ、増大するとともに表面がブツブツとして盛り上がり、数mmから数cmに至ることもあります。通常かゆみや痛みはありません。足底でみられるいぼは、一見“たこ”や“うおのめ”と似ていますが、点状の出血点が黒点として表面にみられることがよくあります。表面を削るとよく出血することも特徴です。また、硬くなると歩くときに痛みを生じることもあります。
どんな治療をするの?
治療法として選択肢はいくつかありますが、どれも良い面と悪い面があります。
皮膚科を受診した際によく行われる治療は、液体窒素による凍結療法です。いぼを直接凍結させる治療で、これは急激な凍結により細胞内に氷晶を形成し、感染している細胞ごと破壊するという方法です。いぼの大きさにもよりますが、1回では全部は破壊できず、また増殖してくるため何回か処置が必要なことがほとんどです。また、この処置は強い痛みを伴うことが難点ですが、他の治療法と比べて有効性は高いので、まずは試みるべきだと思います。
外用療法もあり、効果が弱いものは凍結療法と併用したり、副作用が強いものは凍結療法で治療しにくい足底のモザイク疣贅や、いぼの数が多すぎて凍結療法が困難な人などに適用することもあります。
内服療法としてはハト麦から生成される漢方薬のヨクイニンが一般的です。
ヘルペス
単純ヘルペスウイルス(HSV)による感染症で、ヘルペス疹といわれるまわりに発赤を伴うドーム状の小さい水ぶくれが集まった皮疹を形成し、ピリピリとした痛みを伴うことが特徴です。主に体の中にもともと潜んでいるウイルスの再活性化により症状が出現します。病変部を直接触れることにより他の人にうつしてしまうことがあります。
単純ヘルペスウイルスにはⅠ型とⅡ型がありますが、成人でよく見られるのはⅠ型の再活性化より口唇周囲に発症する口唇ヘルペスといわれるものです。また、アトピー性皮膚炎の人によく見られる小水疱が広範囲に多発するカポジ水痘様発疹症もⅠ型によるものです。Ⅱ型は性器ヘルペスとして発症することが多く、外陰部に再発を繰り返します。
どんな治療をするの?
単純ヘルペスの場合はヘルペスウイルスの特効薬である抗ウイルス薬の内服、または外用を行います。
そのうち治るだろうと放置している間に他の人にうつしてしまったり、体力が落ちて免疫力が下がった時に何度も再発してしまうことがあります。また、かなり症状がひどくなってから治療を始めても、治るまでに時間がかかってしまいます。まずは皮膚科で受診し、本当にヘルペスかどうか診断を行った上で、早期から治療をすることが大切です。
帯状疱疹
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による感染症で、主に上半身の片側に、ヘルペス疹といわれるまわりに発赤を伴うドーム状の小さい水ぶくれが集まった皮疹が帯状にでき、ピリピリとした痛みを伴うことが特徴です。
帯状疱疹の原因である水痘帯状疱疹ウイルスは小児期の水痘(水ぼうそう)と同じ原因ウイルスですが、再活性化により2度目は帯状疱疹を発症します。強い痛みを伴うことも多く、後遺症として“帯状疱疹後神経痛”といわれる痛みが残存することもあるため、早期の治療が望まれます。特に顔面に発症した場合、重篤になることがあり、注意が必要です。
どんな治療をするの?
抗ウイルス薬の内服が必須です。その他、発疹に対する外用薬や、痛みに対して鎮痛剤の内服を行います。急性期の痛みが帯状神経後神経痛に移行しないように、定期的に診察いたします。もし、神経痛に移行する兆候がある場合は、神経痛に対する内服薬を処方することもあります。
陥入爪(まきづめ)
まきづめとは爪の側縁が過度に湾曲しており、前方からみるとアーチ形になった爪のことです。彎曲爪ともいいます。まきづめを放置すると爪の側縁が皮膚に食い込み、このために爪の側縁の皮膚が腫脹発赤して、強い痛みを伴います。程度が強いと爪囲炎など二次感染をきたしたり、爪の側縁に反応性の肉芽形成を伴います。この状態を“陥入爪”といいます。原因としては靴による圧迫や、爪の切り方の問題、歩き方や重心のかけ方など、日常生活の習慣から生じることが多いと考えられます。痛いために食い込んでいる部分を切ってしまい、さらに側縁が食い込んでいくという悪循環になり、炎症を繰り返すことも多い疾患です。
どんな治療をするの?
治療としては、炎症を治めるため、くい込んでいる部分の爪を外し、痛みをとります。まずは爪の切り方を指導し、できるだけ側縁を切らずに伸ばしていただきます。二次感染がある場合には抗生物質の内服や外用で治療していきます。それと並行して、軽症の場合は、テープで爪の側縁に接する部分の皮膚を腹側に引っ張る方法 (テーピング法)、中等度の場合はガーゼや綿球をくい込んでいる爪とその下の皮膚の間に挟み込む方法(コットンパッキング)や、点滴チューブに切れ目を入れて同様にくい込んでいる爪とその下の皮膚の間に挟み込む方法(ガター法)などを行います。
また、爪の彎曲が強い場合は、保険外治療になりますが爪の湾曲を矯正する方法(ワイヤー矯正)を行います。なかなか改善せず、何度も炎症を繰り返したり、爪の食い込みがとても強い場合は、日帰り手術(フェノール法)根治させる方法を行います。
ニキビ
ニキビは多くの人が悩まされる疾患ですが、脂腺の発達した部位である顔や前胸部、背部などにできる毛穴に一致した炎症性の皮膚疾患です。症状としては、プツプツした盛り上がり、白い膿だまりや、痛みを伴う赤く硬い盛り上がりなど多様です。基本的に、治りにくく、再発も多い疾患です。原因としては毛穴のつまり、皮脂腺の亢進、毛穴の常在菌であるアクネ桿菌(P.acnes)による感染・炎症に加え、遺伝性因子、年齢、食事、ストレス、化粧品などの外的な要因が絡まって発症します。
どんな治療をするの?
睡眠、食事、正しい洗顔などの日常生活の改善とともに、薬での治療を行います。外用治療としてはピーリング剤と言われるレチノイドや過酸化ベンゾイル(BPO)の外用剤、抗生物質の外用剤を組み合わせます。塗り方にコツがあるため、丁寧に指導いたします。
また、それとあわせて体質改善をねらったビタミン剤や漢方の内服、中等~重症例では抗生物質の内服を行います。抗生剤にもさまざまな種類がありますので、診断をした上で処方します。ニキビは症状が長く続きやすく、再発も多いため、継続的な治療が必要となります。